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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(あ)2847号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金十万円に処する。

右罰金を完納し得ないときは千円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

弁護人窪田稔の上告趣意は末尾添付の書面記載のとおりである。

職権をもって調査するに、原判決の肯認する被告人にかかる第一審判決判示事実は、被告人は医師で法定の麻薬施用者としての免許を受けているものであるが、麻薬中毒患者である中野きみ子に対し、その中毒の治療の目的で昭和二九年九月四日から同三〇年一月一二日までの間三八回にわたり数日おきに塩酸モルヒネ〇・一ないし〇・二瓦宛合計五、七五瓦を施用のため交付したというのであるが、このような態様の所為はこれを包括一罪として麻薬取締法二七条三項、六五条一項の罪に当るものと解するのが相当である(昭和二九年(あ)第一八〇号、同三一年八月三日第二小法廷判決、判例集一〇巻八号一二〇二頁参照)。しかるに原判決は右麻薬交付の度毎に同罪の成立を認め、これを刑法四五条前段の併合罪として、各罪につき所定刑中罰金刑を選択した上同法四八条二項により罰金の合算額の範囲内において被告人を罰金二十万円に処しているのであるから、原判決の法律の適用は前示の理由に照し違法というべきであって、その違法は判決を破棄しなければ正義に反するものといわなければならない。弁護人窪田稔の上告趣意第一、二点は右趣旨の法令違反の主張をなすものであって、論旨は理由がある。よって刑訴四一一条一号により原判決を破棄した上、同四一三条但書により更に被告事件につき判決をする。

原判決の引用する被告人にかかる第一審判決判示事実(第一の事実)を法律に照すと、該所為は包括して麻薬取締法二七条三項、六五条一項、罰金等臨時措置法二条に当るものであるから、その所定刑中罰金刑を選択し、その所定金額の範囲内において被告人を罰金十万円に処すべきものとし、罰金不完納の場合の換刑処分につき刑法一八条により主文第三項のとおりこれを定める。

よって裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔)

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